阪急9300系電車(はんきゅう9300けいでんしゃ)は、阪急電鉄が2003年(平成15年)に導入した特急形電車。2010年までに8両編成11本が製造された。
1975年に登場した6300系以来の京都線特急車として、2003年10月14日の鉄道の日より営業運転を開始した。京都線用としては1995年の8300系8315F、阪急全体では8000系8042F以来の新造車である。
「すべてのお客様に快適な移動空間」をコンセプトに、「快適な車内空間の提供、優れたサービス機器の導入、高齢者や移動制約者に対するバリアフリー」の3項目を重点に仕様が決定された。阪急の伝統を継承しつつ、新たな乗客のニーズや新技術を取り入れた次世代の標準車両として製造されている。
1948年の550形以来、50年間にわたり阪急の車両を製造してきたアルナ工機が撤退したため、9300系はアルナ工機に代わり日立製作所笠戸事業所で建造された。その後、路面電車事業者からの要望や阪急の保守体制の再編からアルナ車両が発足している。第9編成の9308Fは構体のみ日立で製造し、アルナ車両で艤装を行っている。
2009年度には、安全報告書において40両を増備し、京都本線で運用されている6300系をすべて置き換える計画が示され、この計画通り全編成が9300系に置き換えられた。
開発の経緯
6300系を置き換える特急車の計画は、阪神・淡路大震災の復旧などによる投資の抑制から、たびたび延期となっていた。阪神・淡路大震災から約2年後(1997年ごろ)の構想段階では、6300系と同様の2扉車ながらクロスシートのみとせず、編成中の2両ほどは車両中央部にセミコンパートメントを2 - 4区画配置(残りはロングシート)したセミクロスシート車とする案もあった。
しかし、阪神・淡路大震災の発生や、京阪間ノンストップ特急世代の退職による生産年齢人口の減少、名神高速道路の改良などの情勢の変化から、輸送体系が抜本的に見直され、2001年(平成13年)3月のダイヤ改正で特急は従来の15 - 20分間隔から10分間隔に増発、停車駅はかつての急行並みに増加したが、所要時間の増加を待ち時間の減少で相殺する形で、京阪間を軸としながら、中間駅の需要もこまめに拾うようになった。増発に伴いロングシート車の特急が増えたことと、乗降の増加に対応して3扉セミクロスシートとした本形式を投入することとなった。
車体
車体は日立製作所の「A-train」をベースとし、アルミニウム合金を用いたダブルスキン構造となっている。寸法は7300系で制定した標準寸法を採用、長さ18,900mm×幅2,780mm×高さ4,095mmとなり、Osaka Metro堺筋線への乗り入れも可能としたほか、将来の神宝線の限界拡張も考慮されている[12]。
バリアフリー対応として、床面高さを8000系の1,170mmから20mm下げ、1,150mmとした。同時にホームの高さも1,100mmに嵩上げし、段差の縮小を図っている。従来のホーム高さは神宝線が1,050mm、京都線が1,067mmであった。
前面形状は後退角を増してスピード感を持たせ、上部のヒサシ部分のみ8000系・8300系で採用された額縁形状を残している。後退角は8000系初期車より100mm近く大きい240mmとなり、風圧の問題を回避した。屋根は列車無線アンテナをカバーで覆い、屋根の左右には列車全長に渡ってカバー(飾り屋根)を設け、内側に冷房装置や屋上配線などを納めている。
社章は、「Hankyu」の文字を省略して小型化・金属切り抜き化のうえ、旧社章時代と同じく腰板部分に移された。この変更はその後の新造車や、2008年以降のリニューアル車にも波及した。
内装
京都線の特急用車両は長らく2扉クロスシートが採用されてきたが、9300系では特急の停車駅増加に伴う乗降の増加に対応して3扉セミクロスシートとされた。またクロスシート幅を900mmに、前後間隔を950mmに拡大し、ロングシートの一人あたりの幅も480mmに拡大するなど居住性の向上にも配慮している。転換クロスシートは6300系同様、終点での折返しの際に運転室のスイッチ操作による一斉転換が可能である。車端部は車椅子スペースのある側はロングシート、もう一方には転換クロスシート部分と同様の座席がボックス形に固定して設置され、扉側には補助椅子が設置されている。戸袋窓が無いため、車端部以外の側扉横の座席では側窓との位置関係が合わなくなっているが、日よけは8000系クロスシート車とは異なり各座席ごとに来るように改良されている。
吊革は、京都線の特急車としては初めて、扉部分も含めて全長に渡って設置された。革の色調は、天井付近の内装材が木目調から白色となったため、8300系以前とは異なりグレーとしている。
側窓は連続窓となり、初期の3編成は上下寸法も1040mmと大型化、全窓固定の強制換気となった。第4編成以降は窓上を50mm下げた990mmとなり、車端部の窓は9000系に合わせて開閉式(パワーウインドウ)に変更された。
従来の阪急車両は内装パネルを小ブロックに分割し、アルミジョイントを被せる工法であったが、9300系では大型内装パネルを用いて各部品下側へ入れ込む工法でアルミジョイント部材を省略し、省施工・イメージの一新を図っている。荷物棚と側扉の上部(鴨居部)は天井モジュールと一体化され、この部分も白系統の配色とされたため、8300系以前と比べて木目化粧板が占める割合は減少している。
製造コストを下げるために座席の造りが簡略化されているほか、ドア横の手すりは、日立「A-train」特有のドア枠自体を掴める構造を採用したうえ、難燃性基準の改正により樹脂製の蛍光灯カバーが使えなくなった代わりに半間接照明を採用している。これは車内の上部側板と一体化する形で、蛍光灯下部は半透明の難燃性の樹脂による照明となっている。カバーを外さずに蛍光灯の交換ができるようになり、保守性も向上している。また、室内高さを2,315mmに拡大している。アルナ車両で艤装を行った9308Fも、日立製の他編成と内装の仕上げに差異は見られない。
乗務員室は、運転台の機器配列の変更と新たに運転状態表示・各種設定用タッチパネル液晶モニタが加わっているが、各種構成部品は新規開発品ではなく、8300系などの従来車と同様の物が引き続き採用されている。また、艤装は従来の車両と同様の工法で行われているため、運転台デスクと前面ガラスの角度を除くと他系列とほぼ同様となっている。
機器類
台車は住友金属工業製で、電動台車にはFS565、付随台車にはFS065を装備する。8000系、8300系では一部でボルスタレスが採用されたが、本系列では再びボルスタ付きの台車となった。基礎ブレーキ装置はユニットブレーキによる踏面片押し式を採用している。
制御装置は京都線の慣例により東洋電機製造製で、IGBT素子によるVVVFインバータ(3300A/800A 1C2M)を搭載する。IGBT素子やセンサレス制御は阪急では初採用である。また、2005年(平成17年)に増備された9301Fからは理論上0.3km/hまで回生ブレーキを使用することが可能な、純電気ブレーキ(電気停止ブレーキ)が採用されている。
主電動機も東洋電機製造製で、このメーカー標準のサイクロン式集塵装置付で絶縁ベアリングも使用している。主電動機定格出力は200kW、定格回転数は1,960rpm、最大回転数は4,642rpmである。また、惰行制御も装備している。
ブレーキ装置は回生ブレーキ優先の電気指令式ブレーキ(HRDA-1)を採用、直通予備ブレーキも併設する。ブレーキシステムはブレーキコントロールユニット(BCU)として1つの箱に集約し、各車に搭載している。電動空気圧縮機は交流電動機駆動で、SIMモーターを使用したスクリュー式である。
補助電源装置の静止形インバータはIGBT素子の定格容量150kVAのものであるが、2バンクを並列に同期させながら運転しており、故障時に対応できるようにしている。
運用
京都本線のみで運用される。優等種別が中心で、昼間時は特急のみ、平日朝・夕ラッシュ時は通勤特急や快速急行で運用される。特急形車両であるが、朝・夜には快速(下りのみ)や準急・普通としても運用される。
平日の特急・通勤特急においては5号車に女性専用車両が設定されており(京都線では本系列のみ)、駅やホームページの時刻表では女性専用車両の設定がある列車が案内されているため、9300系での運用であることが判別可能である(設定がなければロングシート車である7300系や8300系、1300系となる)。また、車両の検査などで本系列が不足する場合はロングシート車による代走が行われる。
かつては7300系2両を併結した10両編成の快速急行での運用もあったが、2007年ダイヤ改正以降は他系列と併結して10両編成となる定期運用はなく、増解結は行われていない。2008年7月7日以降、通勤特急にも運用されるようになり、6300系による運用を置き換えた。前日まではダイヤが乱れた場合などを除き、通勤特急や快速特急(2007年休止の初代)では運用されなかった。
ウィキペディアより
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